東京地方裁判所 昭和28年(モ)1484号 判決
申立人が保証として金一千八百三十六万円を供託する時は、被申立人を債権者とし申立人を債務者とする東京地方裁判所昭和二十八年(ヨ)第八八二五号仮差押命令申請事件に付、同裁判所が昭和二十八年十一月十九日なした仮差押決定はこれを取消す。
申立費用は被申立人の負担とする。
この判決は第一項に限り仮に執行することができる。
二、事 実
申立人代理人等は主文第一項掲記の仮差押決定は申立人が相当の保証を立てることを条件としてこれを取消すとの趣旨の判決を求め、その申立の理由として、
「被申立人は先に申立人を債務者として東京地方裁判所に対し仮差押命令を申請し、保証として金三百万円を供託した上、申立の趣旨記載の仮差押決定を以て申立人所有の別紙目録<省略>記載の船舶(以下単に本件船舶と称する)を仮に差押えるとの趣旨の命令を得てこれを執行した。而して右仮差押申請の理由とする所は、被申立人所有の船舶が昭和二十七年十月二日瀬戸内海を航行中、本件船舶と衝突しそのため損害修理費等合計金一千八百三十六万円の損害を蒙つたが、この衝突は申立人若くはその雇人である同船々長その他の乗組員の過失に起因し且つ申立人は右船長等の選任監督に付過失があつたものであるから申立人は被申立人に対し右の金額の損害を賠償する義務を有しこの被申立人の損害賠償債権を保全するため本件船舶を仮に差押える必要がある、というのである。
しかし、申立人は被申立人の請求自体を根本的に争うばかりでなく本件仮差押の執行によつて非常な損害を蒙つているから、相当な保証を立てることにより民事訴訟法第七百四十七条第一項後段に基きこの仮差押決定を取消す旨の判決を求める。」と述べた。<立証省略>
被申立人代理人等は申立人の申立を却下するとの判決を求め、答弁として、
「申立人の主張事実は全部これを認めるが、本件仮差押決定を申立人からの保証提供によつて取消すことは不相当である。」と述べた。<立証省略>
三、理 由
本件申立の要旨は、申立人が裁判所の自由な意見によつて定める保証を提供することにより、民事訴訟法第七百四十七条第一項後段の規定によつて本件仮差押決定の取消を求めると謂うにある。
思うに右条項の趣旨とする所は、仮差押は債権者の債務者に対して有する金銭債権の執行を保全するためのものであるから、その債権を担保するため必要且つ充分と裁判所の認める保証を債務者が提供すれば、債権者としては敢て仮差押を維持存続せしめる必要を失うに至り、当該仮差押は被保全請求権の存否にかゝわりなく保全の必要が消滅したものとして取消されなければならない、という点にある。しからば、同条項にいう保証とは、同法第七百四十三条にいう仮差押解放金額の提供が執行の目的物に代るものを提供することによつて当該仮差押の執行を取消すだけの意味を有するに対し、直接に債権者の被保全債権を担保するに足りるものを提供することにより保全の必要性を消滅させ、これによつて仮差押命令自体の取消を得るという目的を有するといわねばならない。従つて、同条によつて債務者の提供すべき保証の額を決定するに当つては、債権者の主張する被保全債権並に保全の必要性に付ての疏明の程度、債権者の提供した保証の額その他諸般の事情を綜合考察した上、債務者が現在如何なる程度の金額を提供すれば、右の被保全債権を担保するに足りるものであるかを決しなければならない。
これを本件に付て見るに、本件仮差押の申請は被申立人所有の船舶が本件船舶と申立人側の過失により衝突したことによる損害賠償債権金一千八百三十六万円を保全するためのものであること、右仮差押決定を得るため被申立人は保証として金三百万円を供託していること、この決定は被申立人提出の疏明資料並に右の保証提供により一応前記損害金額一千八百三十六万円全額が被保全債権として存在し且つこれを保全する必要性のあることを認定した上でなされたものであることは何れも当事者間に争のない事実若くは当裁判所に顕著な事実である。
而して本件において被申立人の被保全債権が仮差押決定に定められたものより減少さるべきことの疏明は何ら存しないから現在債務者たる申立人に於て本件仮差押命令自体の取消を求めるためには、申立人が債権者たる被申立人の主張する被保全債権額である金一千八百三十六万円を保証として提供することが必要でありこれを提供しない限り右の債権を担保するためには充分でないと認めるのが相当である。本件仮差押命令の執行により申立人主張の損害が生ずるとしてもこれを以て右保証金額を斟酌する理由となし難い。
よつて申立費用の負担に付、民事訴訟法第八十九条を、仮執行の宣言に付同法第百九十六条を各適用して主文の通り判決する。
(裁判官 谷口茂栄 田中正一 秦不二雄)